“ラテカセ”ナショナルTR-512Fを東京都北区のお客様よりお譲りいただきました。良盤ディスクをお選びいただき、誠にありがとうございます。
「ラジカセ」が「ラジオカセット」の略であるということはいまだ広く認知されていますが(まだ普通に売ってますからね)、「ラテカセ」についてはほぼ死語と化してしまいました。
何しろ市場から姿を消してから40年近くは経っていますからねえ。
ラジオ+テレビ+カセットで、ラテカセです。ラジカセは1970年代には若者の部屋に相当程度普及しておりました。多くの若者はそれなりにパーソナルな空間で音楽を聴き、ラジオ番組を楽しんでおったわけです。
となると、もう一つメディアが自分の空間に欲しいところです。
音楽、ラジオときたらテレビです。
テレビは1家に1台の時代でした。家庭用ビデオデッキはまだまだ超・高級品だったので、チャンネル権(この言葉もそろそろ死語ですね)がなければ、見たい番組を見ることができない、これは当時の若者にとっての日常の小さな悲劇でありました。
電機メーカーはそんな若者たちの声を敏感に感じ取りました。部屋でニュースを、ドキュメンタリーを、語学番組を見たいという熱い思いを若者たちは抱えていました。熾烈を極めていた受験戦争に備えるべく、世界に類を見ない経済成長を達成すべく、彼らは知識というものを実に貪欲に吸収したがっていたのです。
そうしてラテカセは登場し、若者の部屋にやってきたのです。
それではあらためて、今回お譲りいただいたナショナル(現パナソニック)のラテカセ“トランザム”(ナショナルは自身のラテカセシリーズに“トランザム”という愛称をつけておりました。マスコットキャラクターは高見山でしたね)TR-512Fを見ていきたいと思います。ボディ横には77年製、とあります。
ブラウン管は5インチ。ブラウン管の構造上奥行きを持たせざるを得ないのでかなりスペースを取りますね。
ツマミとメーターの配置がクールです。このあたり、当時の若者をトリコにしていた「かっけえメカ」のもう一方の雄、アマチュア無線機のインダストリアルデザインを相当に意識していると思われます。特に画像左上、ラジオの同期レベルと録音レベル、乾電池の消耗状態をまとめた3ウェイメーターは今見てもかっこいい。
また、持ち手がついているので立たせるとこんな感じになります。「片づけてる感」より「デカラジカセ感」が出るデザインはグーですね。
というわけでまずは「カセ」。
この日手元にあったG.M.O.レコード「SEGA GAME MUSIC VOL.1」を聴いてみました。しかし試聴がなんでセガばっかやねん笑
オーディオ機器的な、高音質であることを最大目標としているスピーカーではありません。ただ、当時のテレビのスピーカーとしてはじゅうぶんだと思います。
続いて「ラ」。
ラジオをチェックしてみました。ツマミを回してお目当ての局がクリアに聞こえた瞬間の気持ちよさったらないですねえ。ああ楽しい。受信報告書ひさしぶりに送ってみようかな。
最後に「テレ」。
ここばかりはチェックができず残念なのですが、ブラウン管には見た人の思いが詰まって重くなっているので(オカルト)、じっと見ていると見えてくるものがあるのです(オカルト2)。さきほど「若者はニュースを、ドキュメンタリーを、語学番組を見たかった」と書いたが、あれはもちろん全部嘘だ。
私たちが見たかったものは、11PM。トゥナイト。お色気シーンに(もしかすると)ブチ当たれる深夜映画。タイトルからして「これはお色気あり」と踏んで夜更かししたもののお色気などなく、むしろちょっといい映画だった時のなんとも言えない心もようも懐かしくあります。
ラテカセは何かと“重い”のでした。
付属品としてマイクとショルダーベルトがついていたそうですが(本商品では欠品です)、持ち運ぶにはかなりキツイ。
コマーシャルでは高見山がショルダーベルトをかけてタップダンスしてましたが、そりゃあ高見山なら持てるでしょうけどもね。
あとは電池。こちらをご覧ください。
単一電池を9本! これだけ使ってデレビ視聴可能時間は10時間。これまた持ち運んでの使用には厳しいものがありました。単一電池は値段も重いですしね。
結果としては部屋の据え置き機として使わざるを得ないメカでした(車載でのTV受信も厳しかったろうと想像します)。やがて、手の届かない値段ではなくなってきたテレビとビデオデッキが我々の目の前にやってきた時、ラテカセの「テ」は意味を失いました。一方で、安価で高音質のCDラジカセも続々登場していました。
時代の変化の挟間でニーズに応え、役割を果たし切った――。そんな機械ならではのカッコ良さ、哀愁ってあると思います。ラテカセはそんなメカだと思います。
良盤ディスクでは、ラテカセはじめ各種オーディオ機器を高価買取させていただきます。
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音楽好き、オーディオ好きなスタッフが丁寧に査定させて頂きます。
(著者プロフィール:サンテレビ制作「おとなの子守唄」を愛していた良盤ディスク 買取スタッフ。関東の鶴光ファンはこの番組きっかけのケースも多いのでは。ネットした千葉テレビには足を向けて寝られない。日々お売りいただいたアイテムをご紹介します。)